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東京家庭裁判所 昭和62年(家)2217号 審判

申立人 デュポン・ジャンポール

申立人 デュポン・カトリーヌ

未成年者 三萩野浩二

主文

申立人両名が事件本人を養子とすることを許可する。

理由

1  申立ての要旨

申立人両名は1979年12月20日婚姻した夫婦であり、昭和62年(1987年)1月30日から事件本人を引きとり生活を共にしているものであるが、事件本人を養子としたいので、養子とすることの許可を求める。

2  当裁判所の判断

関係戸籍謄本、婚姻証書その他1件記録添付の資料、家庭裁判所調査官の調査報告書、申立人らの審問結果によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人デュポン・ジャンポールと同デュポン・カトリーヌとは1979年(昭和54年)12月20日婚姻し、両人の間には、ミッシェル(1981年5月30日生)、マリー(1982年7月23日生)、ジャンヌ(1984年3月19日生)の3人の子がある。

(2)  申立人ジャンポールは昭和60年7月ころ、フランス大使館の武官として、妻子を伴い来日し、肩書住所地で、妻子と生活を共にしている。

(3)  申立人夫婦は、多くの子を養育したい意向を有し、3人の実子をもうけたものの、医師の勧告もあつて、これ以上の出産が望めないところから、他人の子を引きとり養子として育てたいと考え、乳児院「○○○○○○○」に収容されていた事件本人に昭和62年1月ころから申立人カトリーヌが面接して世話をし、事件本人が同申立人によくなついているところから、申立人夫婦は同月30日、事件本人を自宅に引きとり養育してきている。

(4)  事件本人は、三萩野京子が、昭和61年8月9日出産した非嫡の子であるが、同女が事件本人を養育しえない状態にあつたため出生後まもなく乳児院「○○○○○○○」に引きとられたものであり、実母である同女も申立人両名との養子縁組に同意している。

(5)  申立人両名は、事件本人をオーギュストと呼んで、養育監護しているが、事件本人は申立人両名になつき、申立人夫婦も事件本人を気に入つており、同人を実子と同様に、暖い家庭的雰囲気の中で育てたい旨述べている。

以上の事実によれば、申立人両名はフランス国籍を、事件本人は日本国籍を有するので、本件養子縁組は法例19条1項の適用を受け、養親及び養子のそれぞれにつきその本国法の定める要件を具備することを要するので検討する。

まず、本件養子縁組にかかる裁判管轄権は、養親及び養子ともに我国内に住所を有するので、我国の裁判所にあるものと解される。次に養子である事件本人については、我国の民法所定の実質的要件(民法798条を除く。)を充足していることが認められ、養親である申立人両名については、フランス民法の定める要件を具備することが認められる(同民法343ないし344条、346条ないし348条の5、360条、361条参照)。ところで、フランス民法上、養子縁組には完全養子縁組と単純養子縁組の2類型があり、前者においては、15歳未満の子の縁組については、養親の家庭に少くとも6か月間養子が収養されたことが要件として定められており(345条1項)、後者においては、この要件の規定がない(361条)。本件においては、前記認定のとおり、申立人両名が事件本人の養育開始後未だ6か月に満たないので、完全縁組の要件を具備しているとはいえないけれども、単純縁組の要件は具備しているものと認められる。さらに、フランス民法上、養子縁組の成立につき、裁判所の養子決定を要するが、この決定は、法所定の縁組の要件の存否、縁組が子の福祉に合致するか否かの審査を目的とする点で、我国の家庭裁判所による未成年者の養子縁組の許可と類似の機能をもつので、我国の家庭裁判所の許可をもつて代えうるものと解される。そして、前記認定事実及び家庭裁判所調査官の調査報告書によれば、本件養子縁組は事件本人の福祉に合致するものと認められるので、申立人が事件本人を養子とすることを許可するのが相当である。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 宗方武)

参考

フランス民法

第343条 〔縁組能力:夫婦共同の場合〕(1976年12月22日の法律第1179号)〈〈養子縁組は、別居していない夫婦の双方が、婚姻から5年〔以上〕後に請求することができる。〉〉

第343条の1 〔同前:単独の場合〕 〈1〉 養子縁組はまた、(1976年12月22日の法律第1179号)〈〈30歳以上のすべての者が請求することができる。

〈2〉 養親adoptantが婚姻し、かつ、別居していない場合には、その配偶者の同意が必要である。ただし、配偶者がその意思を表明することが不可能である場合には、その限りでない。〉〉

第343条の2 〔同前:年齢制限の免除〕(1976年12月22日の法律第1179号)〈〈前条に定める年齢の条件は、配偶者の子の養子縁組の場合には、要求されない。〉〉

第344条 〔年齢差〕 〈1〉養親は、その者が養子縁組を行おうとする子より15歳以上年長でなければならない。その子が養親の配偶者の子である場合には、要求される年齢差は、10年のみである。

〈〈〈2〉 (1976年12月22日の法律第1179号)ただし、裁判所は、正当の理由がある場合には、年齢差が前項が定めるそれを下まわるときも、養子縁組を言い渡すことができる。〉〉

第345条 〔養子の年齢〕 〈1〉 養子縁組は、〔1人又は2人の〕養親の家庭に少なくとも6月来受け入れられた15歳未満の子のためにでなければ、認められない。

〈2〉 ただし、子が15歳以上であり、かつ、養子縁組を行うための法定の条件を満たしていなかつた者によつてこの年齢に達する前に単純養子縁組の対象であつた場合には、完全養子縁組は、その条件が満たされる場合に子の未成年中いつでも請求することができる。

〈3〉 養子 adoptéの法律第1179号)〈〈13歳以上である場合には、その完全養子縁組に本人として同意しなければならない。〉〉

第345条の1 廃止

第346条 〔複数養親の禁止〕 〈1〉いかなる者も、夫婦の双方によるのでない場合には、数人の者が養子とすることはできない。

(1976年12月22日の法律第1179号)〈〈〈2〉 ただし、養親又は養親双方の死亡の後であれ、養親双方のうちの生存者の新配偶者が請求を提出する場合には養親の一方の死亡の後であれ、新たな養子縁組を言い渡すことができる。〉〉

第347条 〔養子とされる者〕〔以下の者は、〕養子とすることができる。

1 その者のために父母又は家族会が、養子縁組に有効に同意している子

2 国の被後見子 pupille de I'

3 第350条に定める条件にしたがつて、遺棄されたと宣言された子

第348条 〔同意者:父及び母〕 〈1〉 子の親子関係がその父及びその母に関して立証されているときは、父母双方がともに養子縁組に同意しなければならない。

〈2〉 〔父母の〕双方の一方が死亡し、又はその意思を表明することが不可能である場合〔及び〕その者が親権の権利を喪失した場合には、他方の同意で足りる。

第348条の1 〔同前:親の一方〕子の親子関係がその親の一方に関してのみ立証されているときは、その親が養子縁組に同意を与える。

第348条の2 〈1〉 〔同前:家族会〕子の父母が死亡し、〔若しくは〕その意思を表明することが不可能であるとき、又は父母がその親権の権利を喪失した場合には、同意は、事実上子の世話soin をする者の意見avis を聞いた後に、家族会が与える。

〈2〉 子の親子関係が立証されていないときもまた、同様である。

第348条の3 〔同意の手続:撤回〕 〈1〉 養子縁組への同意は、同意する者の住所〔地〕若しくは居所〔地〕の小審裁判所の裁判官の面前で、又はフランス若しくは外国の公証人の面前で、又はフランスの外交若しくは領事官吏の面前で、公署証書によつて与える。養子縁組への同意は、同様に、子が少年社会援助機関に引き渡されたときは、その機関によつて受理される。

〈2〉 養子縁組への同意は、3月の間は、撤回することができる。撤回réた配達証明付き書留郵便lettre recommandé

〈3〉 3月の期間の満了時に同意が撤回されていなかつた場合でも、親は、子が養子縁組のために託置されていないことを条件として、子の返還をなお請求することができる。子を引き取つた者がその子を返すことを拒否する場合には、親は裁判所に申し立てることができる。裁判所は、子の利益を考慮して、子の返還を命じる必要があるか否かを判断する。〔子の〕返還は、養子縁組への同意を失効させる。

第348条の4 〔同前:養親の選択を委ねる場合〕父母又は家族会は、養親の選択choix を仮に子を引き取る少年社会援助機関又は許可を受けた養子縁組事業oeuvre d’adoption に委ねて、子の養子縁組に同意することができる。

第348条の5 〔同前:2歳未満の場合〕2歳未満の子の養子縁組への同意は、養親と養子の間に6親等を含めてそれまでの血族又は姻族の関係が存在する場合を除いて、子が少年社会援助機関又は許可を受けた養子縁組事業に実際に引き渡された場合でなければ、有効ではない。

第348条の6 〔同意拒否の濫用の場合〕 〈1〉 裁判所は、嫡出及び自然の親族が子の健康santéれらの者の1人のみが申し立てる同意の拒否を濫用と判断する場合には、養子縁組を言い渡すことができる。

〈2〉 家族会の同意の濫用的な拒否refus abusif の場合にも、同様である。

第360条 〔養子の年齢〕 〈1〉 単純養子縁組は、養子がいかなる年齢であつても、許される。

〈2〉 養子は、15歳以上である場合には、本人として養子縁組に同意しなければならない。

第361条 〔完全養子縁組の規定の適用〕(1976年12月22日の法律第1179号)〈〈第343条から第344条、第346条から第350条、第353条、第353条の1、第355条及び第357条末項の規定は、単純養子縁組に適用する。〉〉

【編注】フランス語の表記について、一部の古いブラウザーでは「?」と表示されます。

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